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2024年10月キックオフイベントレポート① 島本町で堪能できる“テロワール”って一体?

 報告者:篠塚茜里・眞弓諒也・稲田大貴・竹中舞・梅田滉基・中川竜成

1テロワールとは?

テロワールとはフランス語の「terre」という土地を意味する言葉から派生した概念である。食品の種類などの地理や気候などによる特徴を表している。
末永らの論文では、日本でテロワールという概念を適用し、その空間内の産品にオリジナリティと特異性を解釈することは、地域活性につながる手掛かりになり、 価値のあることであると考えられるが、テロワールはフランスの文化、歴史、言語に 深く根ざした概念であり、フランス以外の場所に 輸出される場合は、事実上変化しなければならないとされている(末永、田中、和田、新山, 2021)と述べられている。日本にある似た言葉では「風土」という言葉がある。しかし、テロワールと比べると、「風土」は地域を列島や大陸単位で捉えており、概念上、圏域性が弱く、自然環境の規定性が強いと述べられている。(和辻,1935)
一方でピュイゼは、その土地から生まれる食品が生産された環境を表す感覚的なものである。テロワールの目的は人と食と自然と文化との共生を促進し、ウェルビーイング(人間が幸福感を得た状態)を体現することで町を活性化させることである。食べもの、飲みものには栄養、衛生、感覚の3要素がある。栄養的要素と衛生的要素は肉体を維持し、感覚的要素は精神を満たす。そして、感覚的要素により精神が満たされることがウェルビーイング実現につながる。感覚的要素は、自分自身の五感を使って時間をかけて味わうことでのみ得ることができると論じている。

2.島本町の歴史と施設 

「立命館テロワール」最初のトークは島本町についてだ。

島本町は大阪と京都の境に位置し、天王山など多くの自然環境に恵まれている。

山々に由来する良質な水を活かし、日本初のウイスキー工場であるサントリー山崎の醸造所が1932年に開設された。現在でも見学ツアーが行われるなど島本町の名所の一つとなっている。

また、島本町には水無瀬神宮と呼ばれる後鳥羽天皇の離宮があった場所に建立された神社がある。平安時代の男性貴族は遊びとして狩猟(鷹狩)を楽しんでいた記録が残されており、後鳥羽天皇も狩猟を好んでいたとされている。彼もこの地で狩猟を楽しんでいたのだろうか。

3.島本町とジビエの関わり

現在でも島本町の山間部では鹿や猪の狩猟が行われている。

島本町水無瀬にあるジビエ料理の専門店RISTORANTE Co.N.Te (リストランテ コンテ)の店主である宮井一郎シェフは大阪府猟友会に所属し、自ら獲らえた鳥獣をジビエ料理として提供している。

ただ美味しい料理を提供するだけでなく、「自然を食す」「命をいただく」行為の意味や山の環境を守る意義を発信する活動も行っている。

鹿のロース肉を調理する宮井シェフ この鹿も宮井シェフが山で獲らえたもの。【撮影者 篠塚茜里】

鹿のロースト(左)と猪のコンフィ(右)【撮影者 篠塚茜里】

実際に試食すると、想像していたような獣臭さや硬さ、脂っぽさがなく、牛肉や豚肉と同様に美味しく食べることができた。

近年環境保護への観点から畜産の削減が求められている。ジビエは野生動物の肉であるため、畜産を減らしながらタンパク源の供給が叶えられる可能性を秘めていると考えることができる。また、上記のように牛肉や豚肉と同様に美味しく食べることができたことから、植物由来の代替タンパク質や培養肉と比較して受け入れやすいのではないだろうか。

4. まとめ

ここまで島本町の自然と歴史、それらが育んだウィスキーやジビエのような文化について学び、これらはまさしく日本版のテロワールだとみなすことが可能だと考えた。山々や神社に足を運び、島本町の工場で醸造されたウイスキーを飲み、ジビエを食べるといった一連のコースが確立することで、島本町に注目が集まるのではないだろうか。

歴史と現在、そして未来を繋ぐ場所としての島本町は多くの可能性を秘めていると感じた。

【参考文献】

  1. 末永 恭規・田中 翼・和田 教汰・新山 陽子 (2021) 日本の地域産品にテロワールを見出すことはできるか ―高島地域の調査から見た課題と展望― フードシステム研究, 27 (4), 256-261.
  2. ジャック・ピュイゼ (2021) 食べもの・飲みものの感覚的要素とBien Être(ウェルビーイング)立命館食科学研究, 6, 51-54.
  3. プロハンター×シェフ宮井 一郎さんに聞く。ジビエで体験する「命をいただくこと」の意味
  4. RISTORANTE Co.N.Te
  5. 和辻哲郎(1935)『風土―人間学的考察』岩波書店